日高義樹「中国、敗れたり」を読んで

発行されたばかりの本である。著者は元NHKのワシントン支局長などを経て米国のハドソン研究所主席研究員としてテレビ東京の「日高義樹のワシントンレポート」で何度も米軍の潜水艦や空母などに同乗取材をしており、米国の政治家と米軍の動向に詳しい方である。
ただし、初版ゆえ数字データーの間違いが何箇所かある。
この本の中で、次の記述に着目した。

アメリカ国防総省のなかでもとりわけ中国に強い警戒心を持っている統合参謀本部の幹部が私にこう言った。『我々は、日本の自衛隊が南西諸島に新鋭の地対艦ミサイルを配備し、能力の高いレーダーを配置して中国海軍と空軍の動きを厳しく監視するとともに、不法な侵略に対する即応態勢をとっていることに注目している。日本は独自に中国の不法浸入に対抗する態勢を整えつつある。』・・・日本のマスコミは、中国の海軍力や空軍力、クルージングミサイルの力を過大に評価し、中国の軍事力の強大さを印象づけるような報道を続けている。
日本の政治家たちについても、アメリカの助けを得なければ日本を守ることができないと考えているかのように伝え続けている。

しかしながら自衛隊の現場を見ると、まったく違っている。新鋭のミサイルやヘリコプターなどの兵器類、レーダーなどの装備、新しく配備される海兵隊自衛隊員のモラルなど、日本の自衛隊の持つ全ての能力から判断すると、アメリカ統合参謀本部幹部が指摘するように日本は中国の不法な侵入に対して、アメリカの力を借りずに、自ら戦う体制を整えつつある。」(同書231〜233ページ)
ここで書かれている地対艦ミサイルは陸上自衛隊の88式地対艦誘導弾である。米軍のトマホークミサイルほど射程距離は長くないが(百数十キロと公表されている)、巡行ミサイルで性能は良いと言われている。

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写真のようにトラック搭載型で簡単に移動できる。(写真提供:陸上自衛隊)
この地対艦ミサイルを昨年から宮古島石垣島に配備する訓練を続けている。このミサイルは東シナ海から太平洋に出ようとする中国海軍にとって大きな脅威であろう。
そのせいか、中国海軍の軍艦が沖縄と宮古島の間を通って太平洋に出る報道がパッタリと無くなった。
この移動式地対艦ミサイルは、制空権を握っていれば簡単に攻撃出来るであろうが、米空軍と航空自衛隊を相手に中国空軍が、南西諸島で制空権を取れない事を彼らは分かっているだろう。
陸上自衛隊ではこの88式地対艦ミサイルの改良型である12式地対艦ミサイル(下の写真:陸上自衛隊提供)を平成24年度調達分から沖縄を管轄する西部方面隊に集中配備する予定である。

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もう一点は、次の記述である。
「2014年初夏、ワシントンでハドソン研究所が国際問題についての意見交換会を開催した。出席したのは主として現職の政治家たちで、アジア問題についての討論では『日本がようやく本気になって安全保障問題に乗り出した』という好意的な評価が目立った。
『第二次大戦後、日本が初めて安全保障問題について積極的に国民の意見を変えようと動き始めている。オバマ政権が軍事予算を大幅に今切り詰めており、心強いことだ』中西部の保守系下院議員がこう言ったが、安倍首相が提唱している集団的自衛権についてもワシントンの政治家たちは積極的に受け止めている。
もう一つ、この会議で取り上げられたのは『憲法の解釈を変えて軍事力を持つ』という安倍首相の考え方である。
憲法についてそれぞれの政府が、時に応じた解釈を行ったり、判断を下したりするのは、極めて当たり前のことだ』ハドソン研究所の学者がこう指摘したが、憲法を変えず、解釈を変更して新しい国際戦略を展開することは、現在の国際情勢から見て、極めて適切であると言う見方がワシントンでは有力である。」(同書236〜237ページ)
日高氏はオバマ政権に批判的であるが、オバマ大統領の政策と軍事予算の削減から見て妥当な見解だと思う。