日高義樹著「アメリカの大変化を知らない日本人」を読んで

日高義樹氏は元NHKワシントン支局長で現在はアメリカのハドソン研究所の客員上級研究員である。
このブログでも何度も取り上げているし、日高氏の書いた本はたいてい読んでいる。
日高氏の考え方は、日本は憲法を改正して独自の軍隊を持ち、独立国家となるべきである。その上でアメリカとは対等の軍事同盟を結ぶべきだというものである。

この本は今年3月10日初版発行となっている
日高氏は共和党の支持者であろう、オバマ大統領が再選される選挙では共和党候補が勝つと予想してはずれた。それからはあまり注目してこなかったが、相変わらず米軍の動きについては詳しい。
この本によると、アメリカはアジアから米軍を撤退させようとしている、その一方で中国がアジア全域を独占することを恐れていると分析している。
私が直接聞く、安倍内閣とアメリカとの関係は、マスコミで報道されるほど悪くないと思っている。一方でアメリカは経済的には中国と大変に近い、この関係がよく理解できないでいたが、この本を読んで納得できるところがあったのでその点について記す。
「(2012年冬)アメリカと中国の首脳が密かに話し合い、莫大な財政赤字のせいで安くなり続けるアメリカドルの崩壊を防ぐために、通貨同盟を結んだことは明らかだった。この同盟のもと、中国は、目減りを続けるアメリカのドル資産を買い続けることを約束したのである。」(P13)

「『中国は破産しかかっているアメリカのドル体制に組み込まれることによって、ドルの罠にはまった』と言われているが、同時にドルにペッグされることによって国際通貨としての地位を確立した。」(P18)

「中国の人民元とアメリカのドルは、実質的に同盟体制に入っていると言っても言い過ぎではない。人民元の基軸価値はドルに結びついている。専門用語で言えばペッグしている。アメリカはこうした通貨同盟に基づいて、中国が東南アジアやアフリカで経済活動を展開するのを認めている。オバマ大統領と習近平主席が『新しい時代が始まった』と言っているのは、まさにこの状況を指しているのである。
アメリカは日米安保条約という軍事同盟を結び、日本の安全を保障している。しかし同時に、通貨の面ではドルが人民元基軸通貨となり、財政面で中国と同盟体制を確立している。
この状況は、常識的にきわめて複雑に見える。」(P43)
この分析には納得した。日高氏は経済と政治とは切り離して考えるべきであるとも主張している。

また、アメリカ軍と中国軍との関係の変化について
「常識的に私がおかしいと思うのは、これまで中国を仮想敵国として行われてきた環太平洋合同訓練のリムパックに、こともあろうに中国海軍を参加させることである」
オバマ政権が進めている、中国海軍との協調的な姿勢は、アメリカ海軍の根本的な精神に反している。オバマ政権のアメリカが、中国と基本的にどのような軍事関係を持とうとしているのか全く判然としない。」(P141)と書いてあった。
私も昨年であったと思うが、このニュースを聞いた時には「なんで?」と思った。

今後の日本政治について、我々政治家について大変頭の痛いことが書かれてあった。
「この根本的な改造を行うためには、私は日本の政治家のほとんどを入れ替えなければならないと思う。日本は政治、軍事、外交の主権を持っていなかったために、政治家を必要としてこなかった。安全保障についてはワシントンがすべてを代行し、細かいことについては日本を担当した官僚が、看護補佐として取り扱った。日本の政治家に当事者能力がなかったのは、主権を持たない結果で、当然のことだった。」
「日本の政治家はアメリカで言えば地方政治家である。日本で国会議員と地方の県会議員があまり変わらないのは、国会議員としての責任と義務がなかったからだと言える」(P241)
これはハドソン研究所の日本専門家の言だそうだ。
さらに、「戦後の日本の政治家たちは、政策をつくり、国を動かす仕事に向いていない。そうした教育を受けていないからである。日本の政治家たちは政治屋であって政治家ではない。政治屋の仕事は、妥協と駆け引きである。妥協や駆け引きのうまい人物は、長期的な展望を持って国を動かし守る仕事には向いていない。」(P245)
この批判を読んで、私はこれまで会って話を聞いたことのある自民党の首相、幹事長経験者でも、すぐに思い浮かぶ政治家が数人いる。

いま、国会は「集団的自衛権」の行使を認めるかどうかでもめているが、この本で日高氏は「第三章 集団的自衛権は幻である」と題して日米軍事同盟対中国軍のことを詳しく書いている。
日高氏によれば集団的自衛権なるものは日本独自の考え方で、アメリカの安保屋が考え出したもので、国際的には通用しないと書いている。
確かにそうであろうと思った。

また、昨年12月の安倍首相の靖国神社参拝については
「安倍首相の靖国神社参拝は、国家の指導者として当然の行為で、非難されるべきことではない。だがワシントンの人々は、首相の靖国神社参拝はアジアで日本を孤立させ、アメリカとの関係を悪化させる結果になってしまったと考えている。ハドソン研究所の友人が私にこう言った。
『自分の国を自分で守る体制を持たないにもかかわらず、安倍首相は周りの国々に喧嘩を仕掛けるような行動をとった。国際常識にはずれた愚かな行為だ』
この学者の意見は私が知るかぎり、ワシントンの指導者たちのコンセンサスになっている。」(P247)と書かれている。
こういう見方があったのかと考えさせられた。アメリカの学者にとって、所詮日本は属国であるわけだ。
私は、安倍首相の靖国参拝に反対したのは中国と韓国であったと認識している。
アジア諸国で懸念をしめす報道が若干あったことは確かであるが、これについては月刊誌「WiLL」3月号に産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が「安倍靖国参拝を貶めた朝日新聞」と題する文を書いているのでそちらを読んでいただきたい。

また、日本が憲法9条の制約の中でも自前の防衛力を持つチャンスがあったのにそれを拒否した過去があることに関しては、
「日本の防衛力増強の問題は、1970年代から始まった。アメリカは日本に対して防衛力を増強するよう執拗に要求し続けたが、日本はうまくかわしてきた。日本側の懸念の一つは、アメリカの要求をそのまま受け入れれば、アメリカ軍のもとで日本の自衛隊が傭兵の如く使われることだった。」(P250)
この見方については少し異論がある。それはアメリカの自衛隊に対する要求は、盾と矛に例えると、盾に偏った軍備増強の要求ではなかっただろうか、通常の軍隊に対する軍備増強の要求とは違っていたのではないかと思っている。

今後の日米関係において日本のとるべき道について、
「日本はまず何はともあれ、これまでの同盟国であるアメリカに、日本の考えを伝えなければならない。つまり日本に何ができるか、できないかを伝え、アメリカが日本に何を求めるかを率直に尋ね、話し合う必要がある。それが主権国家の義務であり、国際的な独立国家の信義である。」(P251)
これについては同感である。