高橋是清一代記

高橋是清については、昨年の参議院選挙の際に高知に来られた麻生太郎財務大臣が、「安倍内閣がデフレ脱却を図るには高橋是清の政策に学ぶ必要がある。」と発言したのを聞き、その前後に高橋是清の政策について解説した本を読んだことがあった。

その後、いつかは高橋是清の一代記を読んでみたいと思っていたが、宿毛市の図書館で「天佑なり」(角川書店、上下巻)という本を見つけたので借りてきて読んだ。
高橋是清・百年前の日本国債」という副題がついており、昨年6月に発行されている。
著者は幸田真音(こうだ まいん)、1951年生まれの女性で、米国系銀行や証券会社で、債券ディーラーなどを経て、政府税制調査会財務省・財政制度審議会、国土交通省・交通政策審議会の各委員など公職も歴任している。
私は作者名を見て、変わった名前だなぁと思っていたが、女房に言われるまで女性であることに気が付かなかった、しかも時々テレビにも出ている方だそうた。
下巻270ページからの、昭和4年の世界恐慌の翌年、浜口雄幸内閣の大蔵大臣井上準之助が金解禁を行って金本位制にもどった後の、高橋是清との財政論争は圧巻だが、特に295ページからの最後の13ページは特に勉強になった。
赤字国債の発行、大幅な公共投資で昭和の世界恐慌からのデフレ脱却を世界に先駆けて実現した高橋是清蔵相であったが、その反動によるインフラ抑制の為の緊縮財政政策が国民生活を疲弊させ、また、陸軍の予算を削減したことが、2.26事件によって高橋蔵相が惨殺される原因となった。
高橋大蔵大臣への襲撃部隊は近衛師団歩兵第3連隊第7中隊、指揮官は中橋基明中尉、陸軍少将の父と華族の母の間に生まれ、陸軍幼年学校、陸軍士官学校卒業の純粋な陸軍将校であったという。
事件後、刑務所にいる間に何十句も歌を詠んでいる。
中橋の父はその句をみて「そんな素質はないと思っていたのに、うまいのに驚いた。精神を統一させるとこうまでなるのか。基明は30年で一生分を生きた」とまで語ったというエピソードが残っている。
『今更に何をか云はん五月雨に 只濁りなき世をぞ祈れる』
中橋中尉の辞世の句である。

私は大学生の時に2.26事件に興味を持ち、事件を題材とした本や、処刑された青年将校達の遺書、裁判記録を読み、彼らの行動を評価してきた。
そして、処刑された青年将校の遺族が主催する慰霊祭にも何度か参列した事があった。
それ以来最近まで、決起した青年将校達の考え方に共鳴してきた。
しかし、その考え方が、県議になって国家財政の歴史を調べているうちに少しずつ変わってきた。
明治維新によって成立した大日本帝国は昭和20年8月15日をもって滅びたのであるが、国家財政の面から見れば、昭和11年の2.26事件が国家財政破綻の大きな引き金になったのであろう。
青年将校達の、純粋に国を憂いての行動には共鳴しつつ、国家財政の健全化の視点から見れば、全く違った見方が出来る事をこの本は教えてくれた。
written by iHatenaSync