「実質GDP成長率が潜在成長力の天井に達するまでの過程における景気回復には、「銀行貸出の増加」は必ずしも必須ではないのである。
なぜ銀行貸し出しが増えていないのに、景気が回復しているのか。
これまで個人や企業は長引くデフレにより、「デフレ予想」を持ち続けてきた。・・・デフレ予想を持つ時、人々は将来に不安を感じるため、個人や企業は資金を消費や投資に回さず、貯蓄しようとする。お金はデフレで実質価値が高まるので、お金にしがみつこうとするのである。
ところがアベノミクスの発動により、個人や企業の「デフレ予想」は「今後は緩やかなインフレになる」という「インフレ予想」に大転換した。現金や預金の目減りの可能性が生まれたのである。そのため個人や企業は溜め込んでいた現金や貯金を取り崩す形で、消費や投資を始めたのだ。
その結果として起こっているのが、現在の「銀行貸し出し拡大なしの景気回復」なのである。・・・
まとめると、①アベノミクスの「金融緩和政策」は、「ゼロ金利政策」「量的緩和政策」「インフレ目標政策」の三本柱によって、民間のデフレ予想をインフレ予想に大きく転換させる。そして、②家計と企業が、まずは資金残高(フリーキャッシュフロー)を取り崩すことで経済取引が活発になり、景気が上向く。すると、③マネーサプライも増加し、実質GDP成長率も回復する。その結果、④企業が資金不足になるため、銀行貸し出しも増え、景気はさらに回復するというわけだ。」
この点に関して、民主党や他の野党は、金融緩和をやっても日銀や銀行にお金が溜まるばかりで、民間会社にお金が回っていないと批判するがそれが間違いであることがよくわかった。
また、賃金が上がっていないとの批判に対しては、
(本書P153)
「賃金の統計として一般的に用いられる「毎月勤労統計」(内閣府、総務省データ)で給料を見ると、2013年半ば頃から給料は上がり始めているが、上昇は極めて緩やかで、これに多くの人は不満を持っているようだ。
だが、「GDP統計」のなかの「雇用者報酬(名目)」を見ると、賃金は「毎月勤労統計」よりも大きく増加しており、しかも安倍政権成立直後から、両者の差が拡大し続けていることがわかる。」
また、為替レートについて安達誠司氏は「(例えば、アメリカで売られているハンバーガーが1ドル、日本で売られているハンバーガーは100円だとすると、為替レートは1ドル100円程度になるという購買力平価の考え方でいくと)購買力平価との関係で言えば、過去のドル/円レートは、ほとんどの場合において購買力平価から上下20パーセントの円高、円安の範囲内で動いてきた。
現在の購買力平価の水準が1ドル= 100円程度なので、過去の経験則、しかも現在の変動相場制が始まって以来、40年以上続いてる経験則から考えると、現状の1ドル= 120円あたりが円安の上限に近いと考える。」
私は30数年前からアメリカにいる大学時代の友人の所を10数回訪れている。
そのたびに1ドル何円が妥当かということをこの購買力平価でいつも考える。現在は1ドル=100円程度が妥当だと思う。
さらに、「あの手この手で国民を誘導する財政再建至上主義者」という項(P118)では、「名目GDP成長率が1%上昇した場合、税収は何%増加するかを示した「税収弾性値」について、産経新聞論説員の田村秀男氏は2014年8月3日の記事で、次のような事を指摘している。内閣府は、2011年10月に出した「経済成長と財政健全化に関する研究報告書」において、2013年から2021年の日本の税収弾性値を4.04と算出し、名目GDP成長率が1%伸びた時、税収は4倍以上の速度で増えるという試算を出していた(岩田一政日本経済研究所センター理事長が座長となって取りまとめたもの)。
にもかかわらず、内閣が国民に向けて大々的に行った発表(「中長期の経済財政に関する試算」)では、「日本の税収弾性値は1と1.1の間」と書き換えられており、名目GDP成長率が1%伸びても、日本の税収は1%程度しか増えない、とされていた(田村氏を試算では「最近のプラス経済成長時の弾性値実績は3〜5の範囲にある」とされている)。
内閣府は、「景気が回復すれば税収も増えること」を知っていたにもかかわらず、「日本では景気が回復しても、たいして税収は増えない」と発表したというのである。」
この記事は読んだことがあるがひどい話である。
この本の最後には、今後は規制緩和を進めるべきであるとか、TPPの推進であるとか、私が賛同できない考え方もあるが、日本経済の現状分析は納得がいった。