読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「妻と飛んだ特攻兵」を読んで

国防
安保関連法成立の時期に、豊田正義著「妻と飛んだ特攻兵」(角川文庫)を読んだ。
f:id:nakanishi-satoshi:20150922163058j:image
昭和20年8月19日、旧満州国の北東に位置する虎頭の大虎山飛行場から、ソ連軍による日本人虐殺、葛根廟事件に怒った日本陸軍の第5練習飛行隊の11機が、武装解除に応じるための錦州への集結命令を利用して特攻機として出撃し、2機はエンジン故障で墜落、残る9機がソ連軍戦車に特攻攻撃を仕掛けたそうだが、戦果については不明。
また、この特攻攻撃は軍命令に基づくものではなく、自ら「神州不滅特別攻撃隊」と名付けた行動であったために、その遺族が遺族年金を支給されるのに時間がかかった事なども書かれてある。
その中の谷藤徹夫少尉はその妻朝子を後部座席に乗せて特攻攻撃を敢行した。
その2人の物語を中心にして書かれており、初めは平成25年5月発行、文庫版は平成27年2月の発行である。
昭和20年8月9日、日ソ不可侵条約を一方的に破って満州国千島列島樺太に軍事侵攻したソ連軍による日本の民間人虐殺、強姦行為は至るところで行われたと記録にある。
葛根廟事件はその一つである。
興安総省の中心地である興安街居住の日本人約二千人は、興安総省参事官の浅野良三を先頭に集団避難を開始した。この街でも避難民の大半は女性と子供であった。
避難民はホロンバイル草原を歩き続け、興安街から40キロほど離れた葛根廟に差し掛かったとき、ザバイカル方面軍の戦車隊と遭遇してしてしまった。14輌の戦車と20台のトラックが丘の上に現れた。
浅野参事官は即座に白旗を掲げたが、ソ連軍は彼を射殺し、逃げまどう避難民を銃撃し、戦車で轢き殺した。
2時間に及ぶソ連の虐殺が終わると、周辺でこれを見ていた中国人たちが暴徒化して生存者を襲った。そして中国人が去った後、生存者の自決が始まった。
この凄惨な現場から奇跡的に生還し、戦後に興安会遺家族代表を務めた白石正義氏の回想録「殺戮の草原  満州・葛根廟事件の証言」(大櫛戊辰著)も紹介されている。
この一部始終を飛行機から見ていたのが第五練習飛行隊の二ノ宮清准尉であった。
二ノ宮准尉は開戦当初からの加藤隼戦闘隊の生き残りで、この時期教官として飛行隊の大虎山飛行場にいた。
この目撃談を同僚に話し、ソ連軍戦車部隊への特攻攻撃を決めたという。
とは言っても、大虎山飛行場にある実働可能な飛行機は97式戦闘機を改造した複座の2式高等練習機や、98式直接協同偵察機など、爆弾装備を付けていない旧式機ばかり、何より爆弾そのものがなかったという。
97式戦闘機は昭和12年(1937年)に制式採用された。その後採用された隼戦闘機でさえ、大東亜戦争ではすぐに旧式機になったが、それよりももっと古い飛行機だ。
これらの飛行機で爆弾なしでソ連軍のT34戦車に特攻攻撃をかけても破壊できるかどうかもわからない。
しかし、彼らは軍命令を無視してまで特攻攻撃を実行することを決めた。
その中に、満州での新婚生活約1ヶ月を過ごしただけの谷藤徹夫少尉と妻朝子がおり、もう一組、飛行場近くの伊予屋という料理屋の仲居スミ子という女性が大倉巌少尉の後部座席に乗って特攻攻撃に参加している。
大倉少尉には故郷に許嫁がおり、切ない話が残されている。
冒頭の本の写真は残された谷藤夫妻の実写である。
この本は大東亜戦争の歴史を丹念に書いており、その中で谷藤徹夫少尉が何故朝子を同乗させて特攻攻撃をしたかの背景が分かる構成になっているが、読んでいて心が重く、一気に読める本ではなかった。
満州国では日本人を守るべき関東軍が居留民を置いて退却した為に悲劇が大きくなった。
国家が崩壊し、軍隊が崩壊した時に国民がどうなるか、現在でも中東やアフリカで悲劇は続いている。
ここにも、前にこのブログで書いた小室直樹氏の指摘した日本陸軍幹部の「腐朽官僚制」があった。
その官僚達が戦後の慰霊祭でふんぞり返り、命令違反の特攻攻撃を批判した事も書かれている。
昨日も、ロシア訪問中の岸田外務大臣とロシアのラブロフ外務大臣とが会談したが、領土交渉の話はしなかったとの報道があった。
昭和20年2月、スターリン南樺太千島列島を要求し、ルーズベルトが対日参戦の対価として容認したヤルタ秘密協定は国際法上は無効である。
アメリカ合衆国上院は、1951年のサンフランシスコ講和条約の批准にあたり、ヤルタ協定の内容を含まない事を決議し、また、1956年に共和党アイゼンハワー政権は「(ソ連による北方領土占有を含む)ヤルタ協定ルーズベルト個人の文書であり、米国政府の公式文書ではなく無効である」との米国国務省公式声明を出しているにもかかわらず、ロシアは未だにヤルタ協定に基づいて千島列島を手に入れたと主張している。
しかも日本政府は、北方4島は日本固有の領土であり千島列島に属さないとの見解だ。
こんな国が隣にあるにもかかわらず、安保関連法整備に反対する国防意識の欠落した国会議員がいる。
国家崩壊を起こさせないのが政治家の仕事だが、国会のドタバタ劇を見ているとその自覚のない国家議員が多くないかと思う。
最後に谷藤少尉の辞世の句と、特攻隊員の全員を記す。

國敗れて山河なし
生きてかひなき生命なら
死して護国の鬼たらむ

今田達夫少尉(広島出身、26歳)
岩佐輝夫少尉(北海道出身、25歳)
馬場伊与次少尉(山形出身、24歳)
大倉巌少尉(北海道出身、23歳)
宮川進二少尉(東京出身、23歳)
谷藤徹夫少尉(青森出身、22歳)
波多野五男少尉(広島出身、22歳)
北島孝次少尉(東京出身、22歳)
日野敏一少尉(兵庫出身、21歳)
伴元和少尉(石川出身、年齢不詳)
二ノ宮清准尉(静岡出身、27歳)