第一次世界大戦と日本海軍の地中海派遣

現在の国際情勢は第一次世界大戦の前に似ているという見方があります。

グレアム・アリソン、ハーバード大学教授が提示する「ツキュディデスの罠」という見方があり、それは「台頭する国家は自国の権利を強く意識し、より大きな影響力(利益)と敬意(名誉)を求めるようになる。チャレンジャーに直面した既存の大国は状況を恐れ、不安になり、守りを固める。」という事です。

現在の米国と中国の関係がそれであるという見方です。

それを意識して買ったわけではなかったが、本屋で「日本人のための第一次世界大戦史」板谷敏彦著(角川ソフィア文庫)という本を偶々見つけて読み始めました。

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この本の冒頭に、第一次世界大戦当時、日本海軍主計将校であり、派遣駆逐艦「松」に乗船していた片岡覚太郎氏の書いた「日本海軍地中海遠征記」(副題:若き海軍主計中尉の見た第一次世界大戦)という本が紹介されており、国会図書館から取り寄せて読み終えた。

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この本の序文を、もと日本海軍の将校で作家の阿川弘之さんが書いているが、それによると、(大正6年(1917年)2月から7年まで派遣)「「松」「榊」「梅」「楠」など日本の駆逐艦8隻(排水量596トン、全長83m)が、英領マルタ島を根拠地に地中海を東奔西走、輸送船や病院船の護送任務に就いたり、出現したドイツ潜水艇の制圧に出かけたり、英仏海軍と共同で、席もあたたまらぬ作戦行動を展開する。」

と書いてあります。

私は、第一次世界大戦日本海軍の軍艦が地中海へ派遣され、戦死者も出ているという程度の知識しか持っていなかった。

2冊の本を読んで分かった事は、第一次世界大戦が始まって約1ヶ月後の大正3年(1914年)9月5日に、ドイツ海軍の潜水艇U21が、イギリス海軍軽巡洋艦パスファインダー」を魚雷攻撃で撃沈し、さらに9月22日には別の潜水艇U9 (基準排水量500トン)が12,000トンクラスのイギリス装甲巡洋艦3隻を一度に撃沈してしまうという戦果を上げた。

このUボートの予想外の活躍に、イギリス海軍は驚愕し、ドイツ海軍はUボートを大量発注した。(開戦当時の稼動隻数は約20隻)

Uボートの活躍の場所は、大西洋、北海、地中海であった。

地中海では、連合国がフランスのマルセイユから、エジプトのアレキサンドリアギリシャへ輸送船による輸送作戦が行われており、日本海軍は連合国と協力して、この輸送作戦の護衛を行ったものです。

その作戦中にトランシルバニア号事件がありました。

第1次世界大戦中の2017年5月4日、マルセイユから、エジプトのアレキサンドリアへ向けて航行中の英国輸送船トランシルバニア号が、サヴォナ沖の地中海においてドイツ海軍Uボートに撃沈された際、護衛していた日本海軍の駆逐艦「松」と「榊」が、自らの危険をかえりみずに輸送船に横付けし、乗船していた英軍兵士、看護婦、乗組員、約3千2百数十人のうち3千人の命を救った。

この2隻の駆逐艦の活動は連合軍から大変賞賛されたそうです。

派遣期間は1年9ヶ月、護衛回数は総計348回、788隻、兵員70万人人以上、

日本海軍の戦死者59名、負傷者22名、と書いてあります。

感動いたしました。