「デフレの正体」(藻谷浩介著)を読んで

藻谷浩介著「デフレの正体」を読んだ、昨年から相当売れている本だ。
現在の不況を示すのに、いろいろな指標が使われるが、失業率とか有効求人倍率とか「率」が多いが、この本は実数を用いている。
これまで、不況は景気変動で起こると解説されてきた。
しかし、藻谷氏は、そうではなくて総務省統計局の公開している年少人口(0歳〜14歳)、生産年齢人口(15歳〜64歳)、高齢者人口(65歳以上)の実数に着目して分析している。
なかでも団塊の世代(昭和22年〜24年生まれ)の動きに着目して景気変動を分析している。
「生産年齢人口」は「消費年齢人口」と呼ぶほうがいいと前置きしながら、「10代後半は本当は働いていない人が多いと思うし、60歳を過ぎると働いてはいても収入がぐっと落ちる人が多いので、15−64歳というのは広げすぎだとも思うのですが、よけいな議論を招かないためにもとりあえず政府と学会公認のこの数字を使っておきます。」と書いているが、この区分は中学を卒業して集団就職していた時代から、政府が変えていないせいであろう。
統計局のデーターによると、首都圏1都3県では、00−05年の5年の間に106万人も人口が増えており、そのうち年少人口は6万人で、65歳以上だけが118万人増えている。この間に全国で増えた65歳以上の方367万人の3人に1人は首都圏民だった。
つまり、首都圏のほうが高齢化の影響を受けているということだ。
また、藻谷氏は高齢者について「彼らは特に買いたいモノ、買わなければならないモノがない。逆に『何歳まで生きるかわからない、その間にどのような病気や身体障害に見舞われるかわからない』というリスクに備えて、『金融資産を保全しておかなければならない』というウォンツだけは甚大にある。実際、彼ら高齢者の貯蓄の多くはマクロ経済学上の貯蓄とは言えない。『将来の医療福祉関連支出の先買い』、すなわちコールオプションデリバティブの一種)の購入なのです。先買い支出ですから、通常の貯金と違って流動性は0%、もう他の支出には回りません。」
私も同感であり、これが日本の抱えている大きな問題点であろう。
これを読んで、高知県の現状を調べてみた。
直近のデーターは平成22年3月末だったので、5年前と比較した。
平成17年度国勢調査のデーターは、年少人口102,421人、生産年齢人口487,367人、老年人口206,375人である。
それに対し、平成22年3月31日のデーターは年少人口94,914人でマイナス7,507人、生産年齢人口460,014人でマイナス27,353人、老年人口217,473人で、ここだけがプラス11,098人である。
県内の老年人口の割合は28%を超え、今後も急速に伸びる。
高知県経済の回復は、ここを乗り越えなければ実現しない。
さらに、氏は「『少子化』といえば『出生率の低下』だと思っている人が非常に多いのですが、そうではなくて文字通り子供の減少、つまりは『出生者数の減少』こそが少子化です。そして『出生率の低下』というのは少子化が起きる二つの原因の一つに過ぎません。もう一つの原因が親の数の減少、正確には出産適齢期の女性の数の減少です。」
本県議会でも少子化対策の特別委員会を作って議論したが、そこでは出生率を議論していたと考えている。
結婚や、子育てを考えているが、経済的な理由で躊躇している人達に、経済的支援策を考えて結婚しやすい、子育てしやすい環境を作ることは行政の役目であり、その政策は必要である。
しかし、出産適齢期の女性の数の減少は、行政の力でどうなるものでもない。
また、景気分析については、「恒常的に失業率の低い日本では(一桁)、景気循環ではなく生産年齢人口の波、つまり『毎年の新卒就職者と定年退職者の数の差』が、就業者総数の増減を律し、個人所得の総額を左右し、個人消費を上下させてきたわけです。これを理解せず、就業者数増減を見ないで(失業者数増減さえも見ずに)失業『率』と有効求人倍率で景気を論じるというのが日本で広く見られる謎の慣行であるわけですが、そういう景気判断が、就業者数に連動している日本経済の現実とずれるのは当たり前です。」と述べている。
私にとっては説得力のある言葉であった。
藻谷氏はこの本の後半で、その対策として、高齢者から若者への生前贈与などの相続対策や女性の労働参加を提案している。これは現在も考えている政策である。
また、企業が、コスト削減のために若手従業員の給料を抑えてきたことが、めぐりめぐって各企業の首を絞めることに繋がっているとも書いている。
その通りだと思う、おりしも、9月18日(日)の日本経済新聞1面に「製造業、中堅も東南アへ」という見出しで、国内企業が生産拠点を海外に移す動きが加速していると報道している。
記事によると、今後3年間で中堅・中小製造業350社が東南アジアへ進出するという。
今年1月時点の内閣府の調査では、中堅・中小製造業の海外生産比率は5.7%(09年度実績)で04年度の1.4%から急上昇し、15年度には8.2%まで高まる見通しであるという。
ただでさえ、生産拠点の海外移転で地方の工場が閉鎖され、地元の若者の働く場がなくなっている。
私は、東南アジアの工場を視察し、このブログにも書いてきたが、人件費の安さと円高でこの動きは止まらない。
円高は政府の責任である、これに対して何の対策も打てない内閣は国を滅ぼす。