衆議院平和安全法制特別委員会の中央公聴会開催

 13日(月)衆院平和安全法制特別委員会の中央公聴会が開かれ、与党推薦の外交評論家、岡本行夫氏、同志社大学学長・村田晃嗣氏の2人、野党推薦の東京慈恵会医科大学教授小沢隆一氏、山口二郎法政大教授、木村草太首都大学東京準教授の3人が意見を述べたと報道されている。
「小沢教授は、自衛隊そのものが違憲だとの立場から意見陳述。『憲法上多くの問題をはらむ法案は速やかに廃案にされるべきだ』と主張した。」
これは産経新聞の記事であり、私はこの公聴会を全く聞いていないので、この発言は一部であることを前提で批判する。
日本国憲法制定当時の制憲議会といわれる昭和21年(1946年)6月の衆議院本会議において、吉田茂首相と共産党野坂参三衆議院議員との間でこんなやりとりがあった。
野坂参三議員が「侵略戦争は正しくないが、自国を守るための戦争は正しい。憲法草案の戦争一般放棄という形ではなく、侵略戦争の放棄とすべきである」と質問したのに対し、吉田総理は「戦争放棄に関する本案の規定は、直接には自衛権を否定はしていないが、第9条第2項において一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したものである。」と答えた。
また、「国家正当防衛権による戦争は正当なり、ということを認めることが有害だ。近年の戦争の多くは国家防衛の名において行われたのは顕著な事実であり、正当防衛を認める事が戦争を誘発する所以である。」とまで言った。
その時吉田茂首相の頭には、日本の安全は国連に守ってもらうという考え方があった。
これが現憲法制定時の吉田総理の考え方であり、連合国の英国首相チャーチルをはじめ米国の指導者の一部にも、全世界を巻き込む戦争は二度とごめんだとの思いが当時あったことは本人達が書き残している。
憲法の法解釈はこれが原点であろう。
しかし、そんな思いも昭和25年の朝鮮戦争の勃発によって吹き飛んだ。
国連の常任理事国である米ソの対立によって、国連の集団安全保障体制が機能しないことが現実になったのである。
朝鮮戦争にあわてた米国は日本に警察予備隊を作ることを要請し、それが自衛隊の創設に発展した。
自衛隊憲法違反だとの議論は長く続いた。未だに憲法学者の一部にそういう方がいることは承知しているが、小沢教授もその一人のようだ。
日米安保条約の合憲性が争われた砂川事件において、昭和34年12月最高裁憲法第9条第2項に関し、「我が国が主権国として持つ固有の自衛権はなんら否定されたものではなく、我が憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。(中略)我が国が、自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能として当然のことと言わなければならない」と判示した。
国民の生命がどうなろうと知ったこっちゃないという憲法学者と違って、最高裁は国民の生命財産を守り、この国の生存をはかる判決を出した。
この裁判は自衛隊の存在が争点になっているわけではないので、自衛隊が合憲かどうかは判断していない。しかし、国の自衛権と自衛のための措置を取りうる根拠を現憲法ではなく、それ以前の国家が存立するための自然権に求めたのである。この最高裁判決が今も生きている、だから高村自民党副総裁はこの判決を引用している。
次に「民主党政権のブレーンだった山口教授は『日本が他国の戦争に巻き込まれずに済んだのは日米同盟のおかげではなく、憲法9条集団的自衛権行使を禁止していたからだ』と主張。『保守本流という1960年代以降の自民党政権の方針は誠に的確だった」と語り、軽武装・経済重点主義の過去の政策を評価した。」
前半の日米同盟の評価は、「おめでとうさん」と言う以外にない。
しかし、後半の意見は、これこそ民主党が現在の米国と日本を取り巻く国際環境の変化を全く理解していないといわれる所以である。
 2013年9月10日、シリア内戦に関してオバマ大統領は「アメリカは世界の警察官ではない」と演説した。
これには前段があり、オバマ政権は2021年までの10年間で4,870億ドル、約50兆円強の国防費を削減し、2013会計年度予算要求の際に示された人員削減方針によれば、2013年から2017年までの5年間で、2012年現在の陸軍56万2千人体制から49万人体制へ削減、海兵隊は20万2千人体制から18万2千人へと削減されることになっており、海・空軍の削減分(1万4百人)と合わせると、実に10万2千人もの削減が計画されている。
年間約5兆円の軍事費削減が続いている。5兆円といえば日本の年間防衛費にほぼ等しい。
これらを見て米軍が動かないと判断したロシアのプーチン大統領は、2014年3月にウクライナに武力侵攻し、クリミアを侵略した。
また、中国は東シナ海南シナ海での領土拡張を活発化させ、南シナ海においてはベトナムやフィリピン、マレーシアなどと領有権を争っている南沙諸島で7つの環礁を埋め立て、内4つの環礁では大規模な基地を作ろうとしている。
これが国際社会の大きな変化だ。
つまり、米国の力が衰え、その分、中国が大きくなり、しかも軍部への統制が効かない国になりつつある。
米国だけで世界の秩序を管理できない。同盟国がこれまでより米国に協力する体制を作る必要がある。
米国とNATOの間には集団的自衛権がある。アジアではそれがなかった。
その穴を埋める法整備が今回の集団的自衛権の行使容認である。
山口教授はこれらの変化を見ようとしないのか、はたまた知らないのか、教授が評価された「1960年代以降の自民党政権の方針」時代は米国の軍事力が圧倒的に強かった。米国も日本の軍事力強化を全く望んでいなかった。
現在はその米国ですら、一国で自国の防衛を全うすることは難しい国際情勢となった。