今なぜ憲法改正か

5月3日の憲法記念日に、高知市で私が行った講演の要旨と追加分を掲載します。

前に何度かこのブログで書いた事と重複する部分があります。

今なぜ憲法改正
憲法制定議会といわれる昭和21年(1946年)6月の衆議院本会議において、吉田茂首相と共産党野坂参三衆議院議員との間でこんなやりとりがあった。
野坂参三議員が「侵略戦争は正しくないが、自国を守るための戦争は正しい。憲法草案の戦争一般放棄という形ではなく、侵略戦争の放棄とすべきである」と質問したのに対し、吉田総理は「戦争放棄に関する本案の規定は、直接には自衛権を否定はしていないが、第9条第2項において一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したものである。」と答えた。
また、「国家正当防衛権による戦争は正当なり、ということを認めることが有害だ。近年の戦争の多くは国家防衛の名において行われたのは顕著な事実であり、正当防衛を認める事が戦争を誘発する所以である。」とまで言った。
その時吉田茂首相の頭には、日本の安全は将来の国連に守ってもらうという考え方があった。
しかし、その思いも昭和25年6月の朝鮮戦争勃発で吹き飛んだ。米国対ソ連、中国の戦いで国連が機能しないことが証明されたのである。
朝鮮戦争が起きたために、米国は日本に同年8月に警察予備隊を作り、それが保安隊を経て自衛隊となったが、本来ならこの時期に憲法改正を行うべきであった。
戦後、多くの国の紛争において、国連は機能しないことが多かった、その為に、国連は加盟国に個別的自衛権集団的自衛権をみとめた。
我が国は自国の防衛を米国に依存し続けて来た。
米軍が圧倒的な軍事力を保持している時代はそれで我が国の安全は守られた。しかし、20年ほど前にソ連が崩壊し、軍事大国は米国のみの時代が続いた。
2010年になって、米国が世界に展開していた米軍基地を縮小するトランスフォーメーション戦略(ジョイントビジョン2010)を打ち出し、2013年9月にはオバマ大統領が「米国は世界の警察官ではない」と発言した。
その半年後にロシアはウクライナに軍事侵攻しクリミア半島を侵略した。
中国は南シナ海で7つの環礁を埋め立て軍事基地とした。
また、米国は欧州においてはNATO北大西洋条約機構集団的自衛権が機能していたが、機能していない東アジア地域で、日本に対し集団的自衛権を容認する安保法制の成立を要請した。
その背景には急速に軍事力を拡大し、しかも共産党習近平政権のコントロールが効いていない中国人民解放軍の存在があった。
自民党は高村副総裁が、安保法制の制定を求めるために砂川事件最高裁判決の法理を持ち出した。
砂川事件最高裁判決(昭和34年12月16日)は次のように述べている。
最高裁憲法第9条第2項に関し、『我が国が主権国として持つ固有の自衛権はなんら否定されたものではなく、我が憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。(中略)我が国が、自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能として当然のことと言わなければならない』と判示した」
その後、安倍政権は平成27年7月に集団的自衛権の限定的容認を閣議決定し、国会で承認された。
しかし、最近の北朝鮮の暴走ぶりと、1年半に及ぶ米国の大統領選挙を見た日本国民はトランプ大統領を選んだ米国民を見て、日本の防衛に不安感を増大させたと思う。
米国では政治任用ポストは約4,100、そのうち1,242ポストは上院の承認が必要であり、政権移行時に上院の承認が必要なポストは556、そのうちまだ未指名が470ポストある。トランプ政権は未だ道半ばだ。
北朝鮮はここ数年、核実験、ミサイル発射実験を繰り返し実施し、昨年8月3日に初めて日本の排他的経済水域EEZ)にミサイルを撃ち込み、さらに9月5日には3発のミサイルを同地域に撃ち込み、さらに今年3月6日には4発のミサイルを同地域に撃ち込んだ、ほぼ日本の全地域に弾道ミサイルを撃ち込む技術を取得したことを実証した。
ここにきて、3月30日自民党は「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言」を政府に提出し、日本防衛のためにミサイル基地を攻撃する能力を整備するよう要望した。
現状でも我が国は正当防衛として自衛的先制攻撃はできるが、相手側の攻撃の着手状況が判断しにくい。
そのため、この要望書では、「政府は、我が国に対して、誘導弾等による攻撃が行われた場合、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限の措置として、他に手段がない場合に発射基地を叩くことについては、従来から憲法が認める自衛の範囲に含まれ可能と言明しているが、(昭和31年鳩山内閣、平成11年の小渕内閣における野呂田防衛庁長官の政府答弁)敵基地の位置情報の把握、それを守るレーダーサイトの無力化、精密誘導ミサイル等による攻撃といった必要な装備体系については、『現在は保有せず、計画もない』との立場をとっている。
北朝鮮の脅威が新たな段階に突入した今、日米同盟全体の装備体系を駆使した総合力で対処する方針は維持すると共に、日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上を図るため、巡航ミサイルをはじめ、我が国としての『敵基地反撃能力』を保有すべく、政府において直ちに検討を開始すること。」と述べられている。
朝鮮半島が急速に緊張する中、4月25日、佐藤正久議員が参議院外交防衛委員会において、朝鮮半島有事の際の在韓日本人の保護について質問した。
政府の答弁は、在韓日本人の保護について、朝鮮半島有事の際の在韓国日本人の救出計画、訓練は一切ない。また、ソウルの日本人学校は漢江の南側にある、朝鮮戦争時に漢江にかかる橋を、避難民がいるにもかかわらず韓国軍が爆破する悲劇が起きた。その史実を参考にすれば、日本人学校を経済的理由などで北側に作るということはなかったのではないか。しかし学校を移転する計画もない。
お粗末な状況である。
なにより、朝鮮半島有事の際でも、韓国政府の承認がなければ日本の自衛隊は韓国に入ることは出来ない。
また、最近米国、ロシア、中国ではサイバー攻撃の研究が行われており、4月16日の北朝鮮のミサイル発射の失敗は、米軍のサイバー攻撃ではないかとの見方もある。
日本は憲法9条の制約の下、サイバー攻撃は先制攻撃にあたるとの見方があり、研究されていない。
また、同様に長射程の攻撃能力を持つことも自粛している。
米軍に頼らざるをえない。
私はこれでは日本の防衛は全うできないと思う。早急に憲法を改正して自衛隊を国軍と位置づけ、自前の防衛力整備を進める必要があると思う。