「大人の見識」「背中の勲章」

以前は時々このブログで書評を書いていたが、久しぶりに書きたいと思う本に出会えた。

阿川弘之さんの「大人の見識」(2007年11月初版、新潮新書)と

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吉村昭さんの「背中の勲章」(昭和46年初版、新潮社)だ。

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両氏の本は結構読んでいるのだが、この2冊は初めて読んだ。

阿川さんの本は国会内の本屋で見つけ、吉村さんの本は友人からもらった。

「大人の見識」は阿川弘之さんが86歳になって書いた本だ。

この本は日本人の見識、英国人の見識、東洋の叡智、西洋の叡智、海軍の伝統などに分かれて書かれている。

阿川氏の日本の近現代史に関する認識には全面的に賛成ではないが、この本に書かれている大東亜戦争開戦前と終戦に関する認識には大いに納得出来る部分がある。

私は、この本は多くの人に読んでもらいたいと思う。

「背中の勲章」は米軍の捕虜第2号という中村末吉さんという日本海軍の下士官が、昭和17年4月に捕虜になり、昭和21年に復員した後までをたどるノンフィクション小説である。

昭和17年4月18日に、ドーリットル率いるB25爆撃機の編隊が、空母ホーネットを飛び立ち、東京を始め日本各地を初めて爆撃した。

この爆撃機隊を発進させた米海軍機動部隊は、日本のはるか東の太平洋上で漁船を徴用した日本海軍の何隻かの監視船に発見された為に、爆撃予定を早め、昼間爆撃となったこと、それを発見した監視船の一隻は日東丸であり、その後全員戦死したことは知っていた。

ところが、その日この米海軍機動部隊を発見したもう一隻の長渡丸は、艦載機の爆撃などを受け10名が戦死、5名が捕虜となっており、その内の先任が中村末吉さんである。

この本には「生きて虜囚の辱めを受けず」という教えが、日本軍人の心の中に深く浸透しており、その為にいかに多くの兵士が自ら命を絶ったかが書かれている。

この教えを作った東條英機は、終戦後、拳銃自殺しそこねて生きながらえ、今でも批判されている。

東條英機東京裁判では、その主張が評価され、それを元に人物像を見直す見方もある。

しかし、私は陸軍首脳、総理大臣としての東條英機の判断は全く評価しない。

これまでも何冊か捕虜になった兵士を書いた本を読み、日本と米国、英国、独国等との、捕虜に関する考え方の違いに、このような悲劇を繰り返してはならないと思ってきたが、何でこのような考え方を押し付けたのか未だによくわからない。

負傷して、人事不省となって捕虜となった兵士、刀折れ、矢尽きるまで全力を尽くして戦った兵士は、捕虜となっても誇りを持てと何故教えられなかったのだろうか。

この本にも、特殊潜航艇で真珠湾攻撃に参加して、人事不詳で捕えられた酒巻少尉も出てくる。

この方を書いた本は何冊か読んだ。

戦後は日本の自動車会社に就職され、確かブラジルで長く暮らされたと承知している。

間違った教えで、有能な人材を自殺に追い込むような悲劇は繰り返してはならないと痛切に思う。