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「国のために死ねるか」を読んで

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本書(文春新書)を読んで大きな衝撃を受けた。

著書は、元海上自衛隊特殊部隊(特別警備隊)の創設に関わった3名の内の一人である伊藤祐靖氏、この方の顔には見覚えがある。といっても会ったわけではなく、雑誌で写真を見たのだろうと思う。

書き出しは、平成11年(1999年)3月、能登半島沖で北朝鮮の不審船に対し、戦後初めて海上自衛隊海上警備行動が発せられた。その時不審船を追跡していたイージス護衛艦みょうこう」の艦内の場面から始まる。

著書は当時「みょうこう」の航海長、海上保安庁の巡視船と共に不審船を追跡していたが、巡視船が燃料切れのため離脱したため、「みょうこう」が不審船に対して立入検査に臨むことになった。

私はこの事件の数ヶ月後、当時の高村正彦外務大臣の秘書官であった方からこの事件の顛末を詳しく聞いた。

その時の話では、立入検査をやると不審船が自爆するので、何としても立入検査はしないで領海外へ追いだせという方針であったと聞いていたが実際は違っていた。

立入検査に関して何の訓練も受けていない海上自衛官が、初めて持たされた拳銃を持って北朝鮮テロリストに立ち向かう、全滅覚悟のこんな事が準備されていたのだ。

自分の直属の部下であり立入検査要員に指名された部下が伊藤航海長にこう聞いたと書いてある。

【「航海長、私の任務は手旗です。こんな暗夜のなか、あんなに離れた距離で手旗を読めるわけがありません。行く意味はあるのでしょうか?」

私は答えた。

「つべこべ言うな。今、日本は国家として意志を示そうとしている。あの船には、拉致された日本人のいる可能性がある。国家は、その人たちを何が何でも取り返そうとしている。だから我々が行く。国家がその意志を発揮する時、誰かが犠牲にならけばならないのなら、それは我々がやることになっている。その時のために自衛官の命は存在する。行って、できることをやれ」

彼は、一瞬目を大きく見開いてから、なぜかホッとした表情をみせた。

「ですよね、そうですよね。わかりました」

こちらが面食った。私も正直、彼が手旗要員として行く意味などないと思っていたが、勢いよく自分の人生観と死生観をぶつけてしまった。それで良いのか?私に反論しないのか?お前は「ですよね」で行ってしまうのか・・・。

そして一旦解散した検査隊員たちが食堂に帰ってきて再集合した。驚いたことに彼らの表情は一変していた。

胴体には防弾チョッキのつもりか、「少年マガジン」が、ガムテープでぐるぐる巻きにしてあった。そんな滑稽な姿なのに、私は彼らに見とれた。10分前とは、全く別人になっていたからだ。悲壮感の欠片もなく、ニコニコはしていないが、清々しく、自信に満ちて、どこか余裕さえ感じさせる、美しいとしか言いようのない表情だった。

特攻隊で飛び立っていった先輩たちも、きっとこの表情で行ったに違いない。私はそんなふうにも感じた。】

こんな準備不足のまんまで隊員達に船舶検査命令を出す政治家に対してもこう書かれている。【一つは、彼らを、政治家なんぞの命令で行かせたくないと思った。

彼らの表情はなぜ美しかったのか。それは、彼らが"わたくし"というものを捨て切っていたからだ。若い立入検査隊員たちは、短い時間のうちに出撃を覚悟し、多くの要求を諦めていた。そして、最後の最後に残った彼らの願いは、公への奉仕だった。】

戦後初めてとなる海上警備行動発令について、【「海上警備行動の発令は自衛官警察官職務執行法の権限を与えることになる」、「日本の腰抜け政治家にそんなことができるわけがない。」と艦内の食堂にいた隊員に(伊藤航海長は)断言したそうだ。】

ところが、当時の総理大臣は小渕恵三氏、一見ハト派に見えるが、早稲田大学時代は左翼の学生運動に敢然と立ち向かった右派学生の雄であった。私が学生時代に所属していた日本学生同盟はこの早稲田大学紛争を契機として結成されたが、創設者の矢野潤氏(故人)は、小渕恵三氏と早大合気道部の同級生で同じ学生運動をしていた。

私に小渕恵三氏が国会議員になったと嬉しそうに話していた事を鮮明に覚えている。

私は小渕恵三総理大臣、高村正彦外務大臣だからこそ海上警備行動が発令されたと今でも思っている。

ここまで書いて相当に長いブログになった。

この本は2度読み返した。多くの皆さんにこの本を読んでいただいて、自衛官がどういう気持ちで日々の任務に就いているかを知っていただきたい。

私自身、多くの自衛官と話す機会が多いが、それでもこの本を読んで大きな衝撃を受けたし、

まだまだ紹介したい文章がある。

また、現在の法制度では、憲法9条の制約から「公務」と「軍務」の違いがなく、自衛官と警察官、消防士などとの差がないという矛盾を何とかしなければと思っているが、その件についてもこの本は書いてあるので、続編を書きます。